ブレイク-エイジ外伝
     虚構世界の真実


  Ver4.2  「May Storm」


 まずは小手調べとばかり、TENはウラヌスを、エリアマスターを観察できるギリギリの低空にポジションを取らせた。
 見知らぬフルカスタムVPにむやみに突っ込んで行くのはあまりに危険すぎる。特に相手は、あのスタンピートに勝利したVPだ。慎重になるにこした事はない。
 そして、しばらくは追いかけッこが続く。エリアマスターの方は、パターンを読まれないようにか、方向や速度を逐一変えながらの機動を続けている。時折立ち止まってウラヌスの方を振り向くのは誘っているようにも、そうでないようにも見えるのが少々無気味だ。もっとも最高速度に差があるので、ウラヌスから接近しなければまず、間合いがつまる心配はない。
 そして、その慎重さが正しかった事が、観察を初めてすぐに見当がついた。
 遠目にはわからなかったが、相手は間違いなく、先程のエリアマスターとは異なるVPだった。バックパックに取り付けられた大口径砲は、長砲身のファランクスキャノン二門に取り換えられており、また肩パットや、籠手、脚部のアーマーもより大きめの物に換えられている。腰部のそれもまるでスカートのように大きく広がったより重厚な物に取り換えられ、全体的に一回り大きくなったように見える。見た目で変わっていないのは、右手に抱えたアサルトライフルぐらいのものだ。
 何よりも確実に違う点は傷一つ付いていないそのボディ。明らかにさきほどスタンピートと一戦交えた後のVPとは、別のVPであることを如実に物語っている。
 TENは一度閉じた回線を再びオープンにした。

『似てるけど、それさっきのエリアマスターじゃないわね? 何も考えずに突っ込んでくるとでも思った?』
「いえ。これも間違いなくエリアマスターです」

 ふーん。意外に冷静。
 口には出さずに呟きながら、心の中でMAYはTENの評価を上向きに修正する。まぁ、装甲の薄いウラヌスに乗っていればいやでも慎重になりざる得ないのかもしれないが。

「前のエリアマスターじゃないと勝てませんか?」
『え?』
「地雷なんか関係ないとか、安心してたんじゃないかと思って」

 しばし会話がとぎれる。

「それと、一言添えておきますけど」

 先に沈黙を破ったのはMAYの方だった。
 おいかけっこをしながらTENがエリアマスターを観察していたように、MAYもまたウラヌスを観察していた。

「違うVPだとわかっただけでは、壊される結果が変わるわけじゃありませんよ?」
『・・・全損にしてやる』

 TENの怒気のこもった返事に対し、MAYは誰かに見えるわけでも無いのに、茶目っけを込めてちらりと舌をだす。いや、聖がカウンターからモニターしてるだろうと予想してかもしれない。
 唐突に、ウラヌスはエリアマスターに向けて急加速した。
 4枚の翼を羽ばたかせてウラヌスがエリアマスターに迫る。
 速い!
 ウラヌスと初めて戦うMAYにとって相手のスピードは思っていたものより、はるかに速かった。こういう感覚は外から見ていただけではわからない。
 MAYは慌てて進行方向を変え、ウラヌスの突進をぎりぎりでやり過ごした。

『まずは小手調べだったからね』

 TENは、ウラヌスをそのままの速度で通り過ぎさせた後、大きく円を描くようにエリアマスターの回りをかなりの距離を取って旋回させる。

「・・・うまい。”間”がほとんど見えない」

 おもわずため息のように言葉がこぼれる。MAYが外から見て気がついた”間”。それは、じかに対戦する相手からは殆ど気がつかれる事は無いだろう。はじめから”間”がある事に気がついていたMAYでもふと見逃してしまう。そのほんの僅かな瞬間を攻撃するのは、MAYとエリアマスターにも非常に難しい。ならば・・・。

『あら、大口を叩いといてもう降参?』

 呟きがもれ聞こえたのか、TENが茶々を入れて来た。MAYはそれにアサルトライフルの一撃を持って返す。

『っつ』

 ウラヌスの機動がすこしぶれる。とっさに回避はしたが、微かに装甲をかすったようだ。

「大口を叩いてるのはどちらでしょうか?」
『このぉ!』

 TENは、すぐに機体を立て直す。
 今はそれほど速度を出していなかったのでたいしたことはなかったが、ウラヌスが最高速の時に機動を強制的にずらされたりしたらとんでもない事になる。その事は、ウラヌスに乗りはじめた頃に身を持って経験していた。はっきり言ってもう一度味わいたいとは思わない。
 その危険を避けた事によって「勝・て・な・い」のでなければ・・・・。
 ウラヌスは、身をねじった。
 エリアマスターの姿を正面に見据えると、ウラヌスの背後に、まるで後光のように青白い炎が強く輝く。そして・・・。

「かかった!」

 それと同時にMAYがキーパネルを操作した。
 突如大地から2条の土煙が高々と吹き上がりウラヌスへ向かう。土煙の中から現れたのは2発の地対空マイクロミサイルだ。  場所は、ウラヌスとエリアマスターの丁度中間。その場所が、さきほどの追いかけッこの時にエリアマスターが立ち止まっていた場所である事をTENが知るのはずっと先になる。今この時ではそれどころの余裕はない。
 地中から発射されたミサイルは、ほぼウラヌスの進路上をまっすぐに向かってくる。ミサイルの威力は命中時の速度に比例するので、発射直後のミサイルでは大した事はない。だが、問題はウラヌスがそれ以上のスピードでミサイルに突っ込んでいっているという事実。この速度ではマイクロミサイル一発で充分に大破しうる。
 TENは咄嗟にウラヌスに回避させようとしたが、ウラヌスの反応はあきらかにワンテンポ鈍く、回避は間に合わない。MAYは、ウラヌスの特性からこの状況を予測していたのだ。あまりの事に、TENの頭の中が真っ白になる。
 そして2発のミサイルは、ウラヌスの直前で爆煙とともに分解した。無意識のうちに2本の剣を盾のようにかざしているウラヌスはその場に全速で突っ込む。
 直後、爆煙を裂いてその場に現れた時、ウラヌスは合金製のネットに絡めとられていた。辺りに、純白の羽が鳥が撃たれた時のように舞い散る。

『え? な、何よこれ!?』

 速度の弱まったウラヌスに、エリアマスターのファランクスキャノンが狙いを付ける。

「・・・咄嗟の操作にVPが付いていけなかったようですね」

 飛び散る羽の様子にちょっと唖然としたのを隠すかのようにMAYが、TENに話しかける。

『!?』
「それが“あなた達”の欠点です」

 2門のファランクスキャノンが問答無用でネットに絡めとられたウラヌスに砲火を集中する。だが、ウラヌスは傷つきながらも未だ突進してくる。

『まだよ!』
「いいえ、これまでです」

 突っ込んでくるウラヌスを見ながらMAYが左手でファンクションキーを叩いた。



TIME OUT



『あれ?』

 相手の声と、目の前に浮かぶその文字を目にしたとき、TENは気が抜けたようにパイロットシートに深く身を静めた。
 バトロイは引き分けに終った。だが、TENは自分が負けた事をハッキリと自覚していた。
 あの時、MAYが何をしようとしたのかはわからない。だが、エリアマスターには、あきらかにあの状況を打破する“なにか”があったのは間違いないだろう。結果は引き分けでも、実際の勝敗は明らかだった。
『時間切れ忘れてましたね』
 相手が苦笑しながら話している様子が思い浮かぶ。

「・・・MAY?」

 ふと思い付き尋ねる。相手は自分を知っているようだが自分は相手を知らない。当然予想はついているが、確認してみる。

『はい♪ TENさん、日曜に合いましょう』

 そして、その言葉を最後に回線はとぎれた。




 いつもと同じ日が、同じ様にすぎて行く・・・。
 いつもの場所でうつぶせに寝そべりながら、多恵香は、VPのエディットツールが機動したハンディパソコンの画面をただぼんやりと眺めていた。その画面上には一機のVPが各部を展開した状態で表示されている。
 エリアマスターに一方的敗北をきっした月曜から、もう4日になる。
 あれから、多恵香はウラヌスのカスタムに取り掛かったが、あまりにもピーキーなVPであるウラヌスにはこれ以上のカスタムはマイナスにしかならなかった。
 ウラヌスの容量の大半は、翼を含めた推進部とセンサーにつぎ込んである。中でも翼と推進部とで全容量の70%を占めているので、他の部分はもうカスタムのしようが無いほどギシギシに詰め込んでいると言っていい。
 これからもわかるように、ウラヌスはVPというよりVUと言ったほうが近い機体なのだ。
 アプサラスなどに代表される、飛行機型のVUの欠点である近接戦闘力の向上。それをコンセプトに、VUに格闘戦ができる腕を取り付けると言う無茶をやった結果がウラヌスへと発展したのだ。もっとも最初のころは、腕のパーツと空気との摩擦によりブレ等が発生し、直進すらまともにできない機体になってしまったが。
 そして、それらの問題点のほとんどを解決したのが、“あの形状の翼”なのだ。高速で飛行するウラヌスの姿勢制御や振動の軽減などの難問は、柔剛をうまく組み合わせた翼の構造材が吸収、軽減してくれている。それゆえに、取り外してしまったら、ウラヌスは満足に飛ぶ事も出来ない機体となり根本からの創り直しが必要になるだろう。
 そして、天空を自在に舞う翼を失ったウラヌス───天空神───はもはやウラヌスとは呼ばれない。それはウラヌスの死を意味していた。
 多恵香は深くため息を付いた。

カチャ

 屋上の扉が開いた。
 今は授業の真っ最中だ。普段は多少なりとも人のいるこの場所も今は多恵香一人しか居ない。普通ならこんな時間にこの場所にくる者などいなかったが、最近は一人だけよく来る者がいる。
 覗いてみると、思った通りあの時に助けた奇妙な後輩だった。
 彼女は持っていた小さめのスポーツバックを肩から下ろすと、給水タンクの影になった辺りに敷物を引いて腰を下ろした。
 その少女とは、あれからまだ一度も話した事はない。彼女の方から声をかけてくる事もなかったし、多恵香はここしばらくカスタムに集中していたからだ。
 ただ今日に限って、興味を覚えた。ウラヌスのバージョンアップの見込みが無くなって少しやさぐれていたのかもしれないし、他の事にも目をやる余裕が出来ただけかもしれないが、ふとその少女に話し掛けてみる気になったのだ。

「・・・あなた、授業はどうしたの?」

 少し躊躇したものの、相手の方を見もせずに問いかける。

「別に・・・出なくてもわかるから」

 感情のこもらない、独特の澄んだメゾソプラノが小さいながらも届いた。無視されるかとも思っていただけに、べつだんこれといった気負いも無い彼女の答えには、いささか拍子抜けする。
 そして、彼女の言葉に含まれていたもの───無気力感───に気がついたとき、それ以上声をかける気もうせた。
 多恵香は、ハンディパソコンの電源を落とすと、ゴロリと仰向けに寝転がった。
 今日はかなり雲が多い。
 太陽を覆い隠す雲が、風に吹かれて形を変えていく様を眺めながら、明後日どうするかを、ぼんやりと考えていた。


To Be Continued!


あとがき
 今回でTENと「ウラヌス」の関係が、変わってきます。ウラヌスですら、足枷になってきている事に気づいたTENは!? と言うのは置いといて、次回は、番外編(?)です。何故か非情に人気がある彼の活躍を見よ!

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