ブレイク-エイジ外伝
     虚構世界の真実


  Ver8.2  「漣の序曲」


 “ヴァルガー”と言うアクシデントが合ったものの、まだ昼前だ。このまま帰ると言うのも癪。と言う事で、二人はもとの目的を進める事にしていた。
 はっきり言って、良いようにあしらわれた挙句に、瞬殺されたようなものだったし、それが悔しくないわけはない。とはいえ、いきなり文句を言いに行ったとしても、それでは単なる負けイヌの遠吠えだ。
 まずは、あの“紅の破壊天使”に勝てるだけのVPを作らなければ話にならない。それが二人の結論だった。むしろ、目標が出来た分、新型の能力をまとめるのは楽になったと言って良い。
 二人でソファーに座りながらあーだこーだと話し合ううちに、どうにか新型の骨格は、まとまっていった。
 結局のところ、やはりというか何というか、多恵香には高機動型のVPがもっとも性にあっているらしく、この一線だけは多恵香が、頑として譲らなかった。せっかくの彼女の戦闘反射に追いつけないVPを作っても意味はない。この点では二人の意見は一致をみる。
 もっとも、新型VPには残念ながら、空を飛び回れる能力だけは付けない事になったが、これは仕方がない事といえる。
 多恵香としては、“ヴァルガー”と空中戦がしたかったのだが、それではウラヌスを越えるVPは、まず存在しない。さらに容量に対しての利点が無さすぎると言われてしまえば作ってもらう側としては反論の余地はない。
 結局、ウラヌス以上のVPでなければ、わざわざ作ってもらう意味がない、と半ば割り切ったらしく、多恵香はしぶしぶ飛行能力を無くす事を認めた。
 その後も多恵香は、しばらくの間もぞもぞと何事か呟いていた。認めたものの、まだ未練があるらしい。
 五月は、その様子を横目で見て、笑いを堪えていた。その間も彼女の指は止まることなく新しいVPが着々と組みあがっていく。
 ベースは、発売したてのイーディス初のVP“ゴブリン”を選んだが、この点でも2人に意見の相違はなかった。
 多恵香は発売された日にレンタルしてバトルロイヤルに参戦しており、体感的にその優秀性は認めていた。そして、五月は五月で、聖からバイト時間外のでのゴブリン改の作成を依頼されており、資料としてすでに未開封のゴブリンを一機分貸し出されていたので、内部までよく知っていたのだ。その機動力を秘めた基礎部分は展開できなかったものの、画期的な機構を持っているであろう事は信じない訳には行かなかった。

「ところで、どのくらいの能力が予想できる?」

 横からディスプレイを覗きこみながら、多恵香が質問した。

「すごいですよ“ゴブリン”は。だいたいざっと作っても“コンチェルト”並みの機動力と、“アンダンテ”並みの火力は、両立させられます」

 多恵香の質問に実際にエディタツールを使って各部をいじりながら、しれっと結構とんでもない事を言う。

「・・・本当にそんな事できるの?」

 いぶかしむんで多恵香が尋ねるが、「デッガーのボルゾイの最新ヴァージョンでさえ、綿密にやれば出来ない事はありません」と、あっさりと答えが帰ってくる。
 それで納得したわけではないが、多恵香もそれなりの製作者だ。ウラヌスを作り上げたのは、誰でもない多恵香自身である。だからこそ、五月の製作者としての腕が、並大抵のものではないことがわかる。間単に納得はできないものの、完全に否定する事もできない。
 五月は、まず腕の部分を展開した。フレーム部分と肩の間接を指示し、多少強度をあげる。驚いた事に“ゴブリン”は保護カバーが間接部と一体化していた。それにより、間接部の強度と軽量化を無駄無くおこなっているのだろう。
 続いて、肩から腕の掛けての部分に補助駆動システムを取り付けた。これにより腕のパワーゲージが飛躍的にあがる。そこまでやると、五月は展開していた腕を元に戻しシェルを閉じる。
 続いて背部のスラスターが取り外され姿勢制御用のブースターが円状に配置しされた大型のスラスターパックを取り付ける。

「・・・そのスラスターって何用の? 初めて見たけど・・・」
「自作です」

 五月は、多恵香の質問に言葉少なく答える。その間も手は常にキーボードとポインティングデバイスの上に置かれ、視線はディスプレイからずれる気配はない。その様子に、多恵香はふと奇妙な感覚に襲われた。そう、まるでどこかで、同じような状況に出くわした事があるように。だが、それはありえないことだ。五月とあったのはほんの数週間前なのだから。
 多恵香は、その感覚を頭の片隅に追いやると、質問の意図に気付いていないらしい五月に目をやる。

「・・・それもざっと作ったの?」
「え?」

 キョトンとした様子で、やっと顔をあげた五月に、多恵香は呆れてつい笑ってしまう。

「いいけどね。ざっと作ってどんなに強いかを見せようとしてたんじゃないの?」

 やっと多恵香の言わんとするところに気がついたのか、五月は困ったように多恵香と手元のノートパソコンとを交互に見ながら何事か考えていたが、そのうち、考えがまとまったのかまたエディットにもどる。
 結局スラスターは換えたままに、五月は今度は脚の部分を展開した。そして、脚をスカート状の装甲に取り替え、内臓型のホバーユニットを脚部にマウントする。
 ここまでが、時間にして15分ぐらい。使い慣れてる者にとっては、まぁまぁと言うところか。
 ここまでは、普通の高機動エディタならばどれでも持っている機能だった。ところが五月は、多恵香のまったく見た事のない操作をしはじめる。五月の操作に従い初めて見るダイアログが表示される。

「え? なにそれ?」
「これは設定した数値にあわせて、外装甲の素材をもっとも適した合金を調合して、一括して変更する機能です」
「そんなのあるのぉ!?」

 自分の声に驚いて、多恵香は慌てて口を塞ぐ。そっと周囲を伺うとこっちの方を向いていた何人かが慌ててそっぽを向くのが目に入る。

「そのエディタなに?」

 すこし顔を赤らめながら多恵香が問いかける。

「ハイドラフター2ですけど?」

 五月はそう答えるがそのはずはなかった。なにせ自分もそのデッガー製エディタを使っているのだから間違いようがない。

「ハイドラフターにはそんな機能はないわ」
「あぁ、マクロですよ。機能を追加してあるんです」

 答えながら、五月は調合と一括変換が終了したのを確認してから、そのダイアログを閉じた。そして、それまでの変更したデータを、SAVEしてからディスクを取り出す。

「マクロなんて機能がどこについてるって言うのよ!」

 まだ、納得しない多恵香に、五月は返答せず、ただそのディスクを向けながら、いたずらっ子が、いたずらに気づいていない大人を見るよう笑う。

「どうします?」

 尋ねる五月を見ると、多恵香は、ため息を付いてディスクを受け取った。

「ちょうど挑戦者待ちがいるよ」

 エントリーする為にソファーを立ち上がった多恵香に、聖が声をかける。

「ただし、タッグでってことだ。相手はRUNNER&katana、KYO-JI&musashi」
「ランナーか。でもあいつので“カタナ”なんてVP聞いた事がない。新型かしら・・・面白そうね」

 多恵香が振り向くと、五月は軽くため息を吐いてノートパソコンを閉じて、立ち上がる。

「OK、それ受けといて。」

 多恵香に続いて、五月もエントリーすると、ノートをあづかってもらってから書換機に向かう。

「そういえば、いつ直したの?」

 ゴブリンの改造に時間を費やしていたのだから、アモルファスはまだ直っていないはずだ。そう思って尋ねる。

「まだあのままです。そのまま直しても意味ないですし、これは別のです」
「・・・いくつ持ってきてるの?」
「常時5機ぐらいは持ってきてますけど」

 そんなたわいのない話をしながらコクピットに着く。

─── 登録確認 312-SA0032 タエカ・アマノ ───

─── ヘルメット及びシートベルトを着用してください ───

─── 着用無き場合 すべての操縦システムは作動しません ───

 多恵香は、言われるままにシートベルトを締め、ヘルメットから出ている入力端子を、コクピットの規定の場所に指しこむ。

─── 確認しました ───

───── 本日のフィールドはテラ、11月上旬山地 ─────

── 重力1.0G、地雷原無し。快晴。制限時間は40分間です ──

────── GOOD LUCK! ──────

「へぇ。久しぶりに四季フィールドだわ」
「四季フィールド?」

 その言葉を始めて聞いたのか、五月が多恵香の言葉を鸚鵡返しに聞き返す。

「知らない? まったくのランダムで四季にあわせた情緒あふれるフィールドになることがあるって話」
「そういえば、噂だけは・・・」

 多恵香の言葉に、五月が記憶の片隅から噂を飛び出してくる。
 そうこうしているうちに、会話に割り込むようにハッチが開き、紅や黄色にそまった木々が目に入る。2人が出たのは紅葉した木々に埋もれた山の中腹だ。山を登る風がVPに流れを乱され、辺りの色とりどりの木の葉を巻き上げる。

「・・・・・・・」
「・・・・すごい・・・でしょ?」

 沈黙した五月に、一拍おいて多恵香が話かける。
 返事はない。だが息を飲んでいる雰囲気は伝わってくる。

「前に、私が見たのは冬の樹氷群だったんだ。でも、一度見るともう一度見たくなる・・・・」

 例え、それが違う景色であってもね。そう心の中で呟くと、多恵香は、暫くのあいだ、その景色を堪能しようと心に決めた。



To Be Continued!


あとがき
 四季モード。はともかく、問題はこの続き。やっぱりしばらく間があきそうな予感。こいつの続きの前に、別のシリーズを始めるかもしれません。

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