〜英雄奇憚〜

by ボウ リュウシ


 扉を開けた俺達の前に広がっているのは、とにかくだだっぴろい場所だ。 だが、「ガランとした」と言う修飾語はあわない。
 もしこの場を、もっとふさわしい言葉で修飾するならば、それはなんと言っても「荘厳な」だろう。
そして、

「おっ帰りぃ♪」

 キャラキャラとした明るい声。これが扉を開けた俺達が聞いた第一声だ。
 そして、その声と一緒に、はるか向こうから黒い影が一直線に向かってきて、俺に飛びついた。

「遅かったじゃない!」

 腰まで届く長い金髪の髪をポニーテールのように結い上げながら、パッチリとした碧眼が俺を見つめる。顔立ちはこじんまりしていて、それぞれのパーツも、その配置も完璧だ。まぁ美貌って言うよりは愛らしいと言った方がいいが。

「ちょっといつまでくっついてるのよ!」

 そうメイが、飛びついてきた女の子に食って掛かる。そう、お・ん・な・の・こ。まだ12歳ぐらいの女の子なんだよ。

「ちょっとゼウス様!!」

 そうゼウスってのは。

「あ、ごめんなさい。メイお姉様もお帰りなさいませぇ。・・・・・今夜は一緒に居てくださいますわよね?」

 しつこくメイに食って掛かられてたゼウスは、一つ溜め息をつき俺の肩に回していた手をほどき飛び降りる。そして唐突にメイに振り向き、頬を赤らめながらそう言うと今度は、メイに飛びついた。
 ・・・まぁ、いつもの鬼ごっこの始まりだ。メイが逃げ、ゼウスが追う。メイもこうなるって判ってるのに食って掛かるんだよなぁ。人魚族の嫉妬深さってのは恐ろしいもんだと改めて再認識する時ってのはこういう状況を見ちまった時だ。 ・・・ついでに言うと、ゼウスは本当に両刀使いだ。だから、メイも本気で逃げ回る事になってるわけだけど、ゼウスの方は完全に楽しんでからかってるってわけだ。

「ともかく仕事は終った」

 俺はメイが俺の背後に逃げ込んだところで、ゼウスにそう報告する。まぁこれが俺達のいつものパターンと化してるんだが、今日は他にも言っとく事がある。

「で、またクーガだったぜ? 幾らなんでもおかしくないか?」
「・・・これで5度目だっけ? たしかに確率的には殆どありえないはずねぇ」

 その報告を聞くと、ゼウスは、メイをからかうのを止め、俺の報告にちょっと眉を寄せて考え込んでいるポーズを取る。
 このポーズはゼウスのお気に入りだ。実際自分がどう見えてるか計算して、練習でもしてるんじゃないかと怪しみたくなるぐらい、その容姿をいっそう引き立てる。

「わかった、そっちは確認とってみる。ともかく暫らくは仕事も無いと思うから十分休んでね」

 そんな俺の考えを打ち切るように、ゼウスはかわいらしくそう言うと、部屋の遥かかなたにある自分の椅子の方にテテテテテと足音でもたてそうな感じで、駆け戻っていった。
 これで、謁見&報告はおしまい。俺達は遠ざかる小さな後ろ姿に一礼すると、部屋を後にした。


つづく